家族が不安でなかなか行動できない時、CBTの視点からできる穏やかな促し方
家族が不安で一歩が踏み出せない時、どのように支えるか
ご家族が不安を抱え、何かを始めることにためらいを感じていらっしゃる時、そばで見守る方も、どのように声をかけたら良いか迷われることがあるかもしれません。無理に背中を押すのは心苦しいですし、かといって何もせずに見ているのも辛いものです。この記事では、認知行動療法(CBT)の考え方をヒントに、ご家族が不安を抱えながらも、一歩踏み出すためのきっかけを穏やかに探る方法についてご紹介します。
不安と行動のつながり:CBTの基本的な考え方
人は誰でも、不安を感じるとその原因から遠ざかりたいと思うものです。例えば、「失敗したらどうしよう」「うまくいかなかったら恥ずかしい」といった考えが頭に浮かぶと、行動せずにいる方が安心だと感じてしまいます。
CBTでは、このような「不安だから避ける」という行動が、かえって不安を長引かせたり、強めてしまったりすることがあると考えます。一時的に安心できるかもしれませんが、避けることで「やっぱりあれは危険だったんだ」「自分にはできないことだ」という思いが強まり、不安の悪循環が生まれてしまうのです。
しかし、この悪循環を断ち切るために、無理に大きな行動を促す必要はありません。大切なのは、ご家族が少しでも「これならできそう」と感じるような、ごく小さな一歩を見つけ、それを試してみる経験を積み重ねることです。
穏やかに一歩を促すための具体的なヒント
ご家族が不安で行動できない時、CBTの考え方を参考に、ご家庭でできる具体的な接し方のヒントをいくつかご紹介します。
1. 行動を「小さな塊」に分解する
大きな目標や行動は、不安な時にはとても手に負えないものに感じられます。「部屋を片付ける」のが難しければ、「いらない紙を一枚捨てる」「コップを一つシンクに持っていく」といった、ごく小さなステップに分解して提案してみましょう。「これならできそうかな?」と、ご家族自身が思えるレベルまで細分化することが大切です。
2. 結果よりも「試すこと」に焦点を当てる
行動の結果がどうなるかではなく、「まずは少し試してみる」こと自体を価値あるものとして捉えましょう。「失敗しても大丈夫。まずは試してみることに意味があるんだよ」というメッセージを伝えることで、ご家族の心のハードルが下がるかもしれません。成功体験だけでなく、挑戦したこと自体を認め、ねぎらう姿勢が大切です。
3. 「一緒に」「まずはこれだけ」と提案する
ご家族が一人で取り組むことに抵抗がある場合は、「もしよかったら、少しだけ一緒にやってみない?」と提案してみるのも一つの方法です。また、「まずは5分だけ」「今日はこれ一つだけ」といったように、時間や量を区切って提案することで、心理的な負担を軽減できることがあります。
4. 感情に寄り添い、選択肢を提示する
ご家族が「でもやっぱり不安だ」と話されたら、「そうだよね、不安な気持ちはよくわかるよ」と、まずはその感情を受け止めましょう。その上で、「もしよかったら、AとB、どちらが少しでもやりやすそうかな?」「今日は無理そうなら、明日また考えてみようか」など、いくつかの選択肢を提示したり、すぐに答えを求めない姿勢を見せることで、ご家族は安心感を得やすくなります。
5. 小さな成功体験を振り返る機会を作る
もしご家族が小さな一歩を踏み出せたら、その行動の後で「どうだったかな?何か気づいたことはあった?」と、穏やかに尋ねてみましょう。「思っていたよりも大丈夫だった」「少しだけ気分が変わった」といった、ご家族自身の気づきを引き出すことができれば、それは次の行動への大切なエネルギーとなります。大切なのは、ご家族自身の言葉で、その体験を振り返ってもらうことです。
サポートする側のご自身の心持ち
ご家族の不安に寄り添い、行動を促すのは、決して簡単なことではありません。サポートする方も、焦りや無力感を感じてしまうことがあるかもしれません。そのような時は、ご自身の心と体の声にも耳を傾けてください。
- 完璧を目指さない姿勢: すぐに変化が見られなくても、それは自然なことです。小さな進歩を見逃さずに認めましょう。
- 自分自身を責めないこと: ご家族の感情や行動をコントロールすることはできません。あなたはできる範囲で最善を尽くしています。
- 息抜きの時間を持つこと: 適度な休息は、あなた自身が穏やかな気持ちでご家族に接するために必要です。
まとめ
ご家族が不安から行動できない時、認知行動療法の考え方は、無理なく、そして効果的に支えるためのヒントを与えてくれます。大切なのは、焦らず、ご家族のペースに寄り添いながら、ごく小さな一歩から「試してみる」経験を積み重ねていくことです。あなたの穏やかなサポートが、ご家族が少しずつ自信を取り戻し、前向きな気持ちで過ごせるようになるための大切な力となるでしょう。