家族の漠然とした不安、CBTの考え方でどう理解し支えるか
家族の漠然とした不安、CBTの考え方でどう理解し支えるか
家族が「なんだか漠然と不安」「はっきりしないけど落ち着かない」といった状態にある時、どう接したら良いのか戸惑うことは少なくありません。原因が明確でないため、本人も周囲もどうすれば良いか分からず、もどかしさを感じることもあるでしょう。
このような漠然とした不安に、認知行動療法(CBT)の考え方がどのように役立つのか、そして家族としてどのような視点から穏やかにサポートできるのかについてお伝えします。
漠然とした不安をCBTの視点から捉える
「漠然とした不安」は、一見すると具体的な心配事がないように思えるかもしれません。しかし、CBTの視点から見ると、それは「頭の中に浮かぶ考え(自動思考)」と「体や心の感覚」が複雑に絡み合い、結果として「何が不安なのか明確にできない状態」になっていると考えることができます。
例えるなら、部屋の中に散らばったおもちゃのように、一つひとつの心配事が積み重なり、全体が混沌として何から手をつけて良いか分からない状況に似ているかもしれません。
CBTでは、不安な時に心に浮かぶ考えやイメージ、そしてそれによって引き起こされる体の反応や行動に注目します。漠然とした不安の場合でも、実は「もし〜になったらどうしよう」「きっとうまくいかない」「自分はダメだ」といった、無意識のうちに繰り返される特定の思考パターンが影響していることがあります。これらは「自動思考」と呼ばれるものです。
家族ができる穏やかな理解とサポートのヒント
家族として、漠然とした不安を抱える方を直接診断したり、治療したりすることはできません。しかし、CBTの基本的な考え方を日常に取り入れることで、ご家族が不安にどう向き合い、どのような穏やかなサポートができるか、いくつかのヒントをご紹介します。
1. 不安の「正体」を一緒に探るような意識を持つ
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具体的な状況に焦点を当てる声かけ: 「何に不安を感じているの?」と直接聞かれると、本人も答えに詰まってしまうことがあります。代わりに、「最近、どんな時に一番落ち着かないと感じるかな?」や、「何かを始めようとした時に、どんなことが頭に浮かぶことが多いかな?」といった具体的な状況や感覚に焦点を当てた問いかけが役立つかもしれません。
- 声かけの例:
- 「今日はどんな時に一番ホッとした?」
- 「あの時、ちょっとソワソワしているように見えたけれど、何か気になっていることがあったのかな?」
- 「今、体はどんな感じがする? 重い感じがする?」
- 声かけの例:
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「考え」と「事実」を分ける視点: 不安な時、人は頭の中に浮かんだ考えを「事実」だと強く感じてしまうことがあります。ご家族としては、「それが起こるとしたら、どんなことが起こるだろう?」や「本当にそうなる可能性はどれくらいあるだろう?」といった問いかけを、穏やかな口調で投げかけてみるのも良いかもしれません。すぐに答えが出なくても、その問いかけ自体が、ご自身の考えと向き合うきっかけになることもあります。
2. 小さな「できた」に注目し、行動を促す
漠然とした不安は、時に「何もできない」という気持ちにつながり、行動をためらわせることがあります。CBTでは、小さな成功体験を積み重ねることが、自信の回復につながると考えられています。
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目標を細かく砕く: 例えば、「散歩に行こう」というのも、不安がある方にとっては大きなハードルかもしれません。そのような場合は、「玄関まで行ってみようか」「家の周りを一周してみようか」といった、より小さなステップに分けて提案してみるのも一つの方法です。
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できたことを具体的に認める: 「すごいね!」という抽象的な褒め言葉だけでなく、「今日は洗濯物を畳んでくれてありがとう。助かったよ」「少しだけ外出できたんだね、素晴らしいね」といった、具体的な行動を認める言葉を選ぶと、相手にも伝わりやすくなるでしょう。
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結果よりもプロセスを大切にする: 完璧な結果を求めるのではなく、不安を抱えながらも一歩踏み出そうとしたプロセスや努力を尊重する姿勢が大切です。
3. 家族自身の心の安定も大切に
ご家族の不安に寄り添うことは、支える側にとっても大きなエネルギーを要します。ご自身が疲れてしまわないよう、心の安定を保つことも非常に重要です。
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完璧を目指しすぎない: 家族の不安を全て取り除いてあげようと、一人で抱え込みすぎないようにしましょう。できる範囲でサポートする、という意識を持つことが大切です。
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自分の時間を持つ: 気分転換になるような趣味の時間や、心許せる友人との会話など、ご自身がリラックスできる時間を持つように心がけてください。
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情報を集める: 不安について学ぶことは、理解を深め、より冷静に対応するための力になります。専門家の書いた書籍や信頼できる情報サイトなどを参考に、ゆっくりと知識を深めていくのも良いでしょう。
まとめ
家族の漠然とした不安に寄り添うことは、根気と理解が必要です。CBTの基本的な考え方は、不安のメカニニズムを理解し、具体的な思考や行動に目を向けるための視点を提供してくれます。
明確な答えを急ぐのではなく、小さな発見や変化を大切にし、穏やかな気持ちでご家族の隣にいること。そして、ご自身の心の健康も守りながら、できる範囲でサポートを続けていくことが、何よりも大切であると考えられます。
不安を抱える方が、少しでも心穏やかに過ごせるよう、この情報が助けになることを願っております。